核問題解決の諸要素

                               李 根(リ・グン)

 

 この文書は、核問題に関する六者会談で北側代表団副団長を務める朝鮮民主主義人民共和国外務省米国担当副局長で軍縮・平和研究所副所長の李根氏が20031216日、米国の国家政策センターに送ったもの。

 1)米国の対朝鮮敵視政策

 核問題は、米国がわれわれに対する敵視政策の一環として南朝鮮とその周辺に膨大な核兵器を配備し、われわれを脅かしたために発生した。
 クリントン行政府当時、核問題を解決するための朝・米交渉が行われた結果として、一時米国の対朝鮮政策が完全なる敵対性から部分的な関与性に変わった。
 黒鉛減速炉システムおよび核燃料棒などの凍結と重油および軽水炉の提供などによって、核問題の究極的解決への希望も見えるようになった。ところがブッシュ行政府の双務的政治対話の中止、悪の枢軸発言、核先制攻撃対象との規定などによって核問題は振り出しに戻った。
 これらの事実は、朝・米間に存在する敵対性政治が核危機の発生元であることを実証している。米国がわれわれに対する敵視政策を維持するかぎり核問題は決して解決されない。米国が真から朝鮮半島の非核化を望むならば、われわれに対する敵視政策を実際的に変更させねばならない。重ねて言及するが、米国の対朝鮮敵視政策が変化しないかぎり、われわれは絶対に核を放棄するわけには行かない。
 米国が対朝鮮政策を根本的に転換させるならば、われわれも核抑止力を放棄することができる。
 すなわち、米国がわれわれに脅威を与えないことを保障する法的・制度的装置が備わり、米国に対する一定の信頼が生まれ、われわれが米国の脅威をこれ以上感じなくなれば、その時点で、すでに製造した核兵器に関する問題について米国と論議することが可能になろう。
 米国が対朝鮮敵視政策を放棄したと判断しうる基準は次の通りである。
 第一、わが共和国を攻撃しないという不可侵の保障を、われわれが信用できる方式で提供すること。
 第二、朝・米間の外交関係が樹立されること。
 第三、米国がわれわれと南朝鮮・日本をはじめ他国との経済取引を妨害しないこと。
 このような三つの問題が解決しないかぎり、核兵器の有無やその解体の問題について論議することができないというのが、われわれの立場である。
 しかし米国の立場は、われわれが先に核を放棄すべきであり、それが確認されてこそ安全を保障し経済支援も行うというものである。これは朝・米双方が最大の敵対関係にあり信頼関係が全くない現在の状況では実現不可能である。
 核問題が発生した歴史的経緯から見ても、国際関係の実践的見地から見ても、相互信頼関係が不足している相手との間でどちらか一方が他方に対して先に行動しろと強要するのは、到底受け容れ難い論理である。
 われわれが先に行動するとなれば、それは屈服である。わが人民と軍隊は屈服を死と考えている。
 われわれは、ブッシュ行政府がいくら甘言を並べても信じられない。核問題解決のためには何よりも米国が政策転換を行うべきである。

 2)基本合意文

 基本合意文を先に破棄し始めたのは米国である。米国はジュネーブ基本合意文の第一条にしたがって、2003年までに軽水炉発電所をわれわれに提供することになっていた。われわれは合意文が締結された当時、黒鉛減速炉とその関連施設を凍結することになっている。
 しかしわれわれが九年に渡って凍結を維持した間、軽水炉は満足な設備一つ持ち込まれぬまま基礎工事や周辺整理が行われたに過ぎない。各々
100万KW級の軽水炉二基がいつ完成するかも未定である。米国の軽水炉建設公約違反によって今年は100万、翌年は200万という電力の損失を被ることになる。
 朝・米双方は合意文の第二条にしたがって、政治・経済関係の正常化へと向かうことになっている。
 しかし去る九年間、米国の経済制裁は絶え間なく続いてきた。ブッシュ行政府は就任早々、クリントン行政府の対朝鮮政策を再検討するとの口実でわれわれとの対話を一切中止した。さらには「悪の枢軸」としてわが共和国を名指しすることによって双務関係の悪化へと方向転換した。
 米国は合意文の第三条にしたがって、われわれに対して核兵器を使用せず、核兵器によって脅威を与えないことになっている。
 ブッシュ行政府は、発足後新たに作成した米国の安保戦略において、安保上憂慮すべき対象に対して先制攻撃を行う権利を云々したばかりか、その対象にわが共和国を含ませた。さらには、先制攻撃手段の範囲には核兵器が排除されないとまで公言した。
 合意文第四条と関連する非公開了解録第七項にもとづき、われわれは軽水炉の「タービンと発電機を含む非核部品等の納入が完全に実施された後に核査察を受ける」ことになっている。しかし米国は、早期査察を受けるべきだとの一方的な論理を掲げて、あたかもわれわれが合意文に違反しているかのごとく国際世論を醸成させた。

 3)同時行動案および一括妥結案

 われわれは「言葉対言葉」、「行動対行動」を骨子に、同時行動原則に基づいて核問題を包括的に妥結することを主張している。
 一部では、米国が不可侵を保障する時点でわれわれが核計画の放棄を宣言すると理解している。
 われわれは、米国が核放棄宣言を引き出した翌日からわれわれの手足を縛って行動を強く迫り、武装解除を開始すると言うのではなかろうかと憂慮している。これは「言葉対行動」に他ならない。
 公正さを保障するためには、「安全保障対核計画放棄宣言」でなく「対朝鮮敵視政策放棄対核計画放棄」の意思表示とならねばならない。
 これは「言葉対言葉」である。
 「行動対行動」とは、徹底的に一括妥結の図式に基づき同時行動の順序で行われることを意味する。

 一括妥結の図式

 米国は
 ・不可侵を保障し
 ・朝・米外交関係を樹立し
 ・朝・日および南北経済協力の実現を保障し
 ・軽水炉提供の遅延による電力の損失に対する補償を行って軽水炉を完工させ
 朝鮮はその代わりに
 ・核兵器を製造せずその査察を受け入れ
 ・核施設を究極的に解体し
 ・ミサイル発射実験を保留しその輸出を中止する。

 同時行動の順序

 ・米国が重油の提供を再開し人道主義食料援助を大幅に拡大すると同時に、朝鮮は核計画放棄の意思を宣言し
 ・米国が不可侵を書面によって保障し電力の損失に対して補償する時点で、朝鮮は核施設と核物質の凍結および監視査察を受け入れ
 ・朝・米、朝・日外交関係樹立と同時に、朝鮮はミサイル問題を妥結し
 ・軽水炉が完工した時点で朝鮮は核施設を解体する。

 以上の通り、われわれが提起した同時行動原則に基づく一括妥結案の骨子は、米国の対朝鮮敵視政策転換、朝鮮の核計画放棄、朝・米双務関係正常化など、核問題を包括的かつ公正に解決しうる一括妥結の図式と同時行動の順序が具体的に反映されている。
 われわれが同時行動措置によって核問題を一括妥結しようと言うのは、米国に対する不信感のためである。
 われわれが米国を信じて一方的に核計画を破棄しても侵略されないという保障は何もない。
 イラクの事態が米国に対するわれわれの不信感が正確であることを実証している。
 イラク戦争は、米国が自らの目的を達成するためには国際法も国際世論も、果ては同盟国の忠告さえも傍若無人に無視して軍事行動を強行するような横暴な国であることを実証した。
 イラクが国連武器査察団の査察を誠実に受け入れたにもかかわらず、また、査察団が大量破壊兵器開発の証拠が全くないと判断したにもかかわらず、米国はイラクを攻撃した。
 われわれは米国との関係において、全てを同時行動原則に合致させねばならず、米国がわれわれを攻撃しないことが行動によって明確に証明された時点に至ってこそ、核抑止力を放棄する行動が可能であるという結論を下した。
 もしも米国がわれわれの同時行動原則に基づく一括妥結案を無視するならば、それは「先核放棄」の立場とわが国を圧殺しようという目的を引き続き追求することを意味する。
 それは結局朝鮮半島の非核化に反対することになる。米国がわれわれに対して「先核放棄」を強く迫るのは、武装を捨てて丸腰になってアメリカの奴隷になれと言うのに等しい。われわれはたとえ死んでも奴隷的平和を望まない。
 したがって「先核放棄」には絶対に応じられない。
 われわれの立場は単純かつ明白で公明正大である。すなわち、朝・米双方が同時に銃を下ろして平和的に共存しようということである。われわれは第二次六者会談で、米国が同時行動原則に基づく一括妥結案を受け入れる政治的勇断を下すことを期待する。

 4)六者会談

 朝鮮民主主義人民共和国はこれまで、一括妥結を中心に六者会談を早期に実現するため実際に多くの譲歩をしてきた。
 米国は朝・米不可侵条約締結に難色を示してきた。そのため共和国は、ブッシュ大統領が示した「書面による安全保障」案に対して、それが朝・米共存と核問題の一括妥結案を受け入れることを前提とするものであれば受け入れる用意があると表明した。また、米国が同時行動という表現を憂慮するのであれば、その内容に変化がないかぎり米国が望む表現を受け入れることができるとの立場を表明した。
 共和国は、去る
1111日のニューヨーク朝・米接触を通じて、第二次六者会談を12月初めに再開しようという立場を米国側に伝えた。このような立場は、他のルートを通じても米国側に十分伝えられたはずである。
 わが共和国はこれまで、米行政府が共和国側の譲歩に対して当然ながら善意で答えるものと期待してきた。しかし現在出回ったり、あるいは直接伝えられる米国側の立場というものは大いに失望するようなものばかりである。
 米国は現在、「書面による安全保障」なる紙切れ一枚で共和国の核抑止力を根元から引き抜いてしまおうとしているようである。実際において、書面による安全保障というものは一種の公約に過ぎない。わが共和国と米国は半世紀以上も敵対関係にある。また、米軍が引き続き南朝鮮を占領している。南朝鮮および朝鮮半島の周辺には、われわれを標的にした武力が増強されつつある。このような実情で、敵対国である米国の生ぬるい公約を信じて自らの武装を解除することなど考えられない。
 米国は最近、小型核兵器の製作研究を合法化させた。その目的はわれわれを狙ったものである。米国はこれに莫大な予算まで割り当てた。
 朝鮮半島の非核化は、わが共和国の一貫した目標である。にもかかわらず今日わが共和国が核抑止力を保有せざるを得ないのは、全て米国の脅威ゆえである。あえて順序を決めるならば、朝鮮が行動する前にまず米国からわれわれに対する軍事的脅威を完全かつ検証可能に、さらに不可逆的に解消させるべきである。
 しかし朝鮮は、朝・米が同時に実際の行動によって信頼を築く目的から、同時行動原則に基づく一括妥結方式を核問題解決の根本的方途として示した。朝鮮はさらに一歩進んだ。米国がわれわれの一括妥結案をいっぺんに受け入れることが困難な立場もありうる。したがって次回の六者会談で「言葉対言葉」の公約と同時に第一段階の行動措置だけでも合意すればよいとの立場を示した。
 すなわち、朝鮮が核活動を凍結する代わりに、米国はわれわれを「テロ支援国」のリストから外し、われわれに対する政治・経済・軍事的制裁と封鎖を撤回し、米国と周辺諸国が重油と電力等のエネルギー支援のような対応措置を実施することである。
 こうなれば六者会談が引き続き行われる基礎が築かれることになる。朝鮮はいかなる場合も、核活動を何の補償もなく凍結することはできない。朝鮮はこのような提案をさまざまなルートを通じて六者会談参加国に通報した。
 米国が朝鮮との平和的共存を願うのであれば、同時行動原則を受け入れられない理由はない。六者会談の展望は全て、われわれが提起した第一段階の措置について合意できるか否かにかかっている。
 現在国際社会は、朝鮮半島の核問題に関する六者会談の早期再開を求めている。六者会談に対する国際共同体の期待は非常に大きなものである。したがって六者会談の参加国は、核問題に関する立場を明らかに示すべきである。
 共和国の外務省スポークスマンは
129日、朝鮮半島の核問題を解決するための六者会談に関する共和国政府の立場を再度明らかにした。今もこの立場は変わらない。
 すなわち、同時行動原則に基づく一括妥結案を実現することは核問題解決の生命であり、合意の中核を成すということである。これが六者会談に臨む朝鮮政府の終始一貫した立場である。
 われわれは第一段階の同時行動措置についても具体的に示した。世界の世論は今、この提案を肯定的に評価している。さらには米国がこの提案に善意を持って対処することを願っている。
 その反面、米国の指導層は否定的である。彼らは「朝鮮の核凍結ではなく完全撤廃を求める」、「北朝鮮が六者会談の再開に関して新たな前提条件を出した」と言っている。
 われわれが示した第一段階の同時一括措置は、「言葉対言葉」で終わるような単純な公約ではない。これには会談参加国が願う朝鮮半島の非核化を実現するための行動に直接移行するという、われわれの意志がこめられている。このような意志は単純なものではない。
 現在の状況において、朝鮮が第一段階の措置として核兵器をこれ以上製造せず、実験も行わず、移転もせず、平和的な核動力工業まで中止する等の凍結措置を提案するのは、さらなる大胆な譲歩である。
 しかし米行政府は、このような譲歩を「条件付き」と言っている。これは本質において朝鮮半島の非核化を願うのでなく他の目的を追求してのことである。
 問題解決に必要なのは言葉ではなく実際の行動である。米国が核問題解決に関心があるならば、朝鮮が示した第一段階の行動措置案を受け入れるべきである。
 わが共和国が、朝鮮半島の非核化を願いながらも今日になって核抑止力を保有せざるを得なくなったのは、全て米国による核脅威のためである。経済等全ての面において、わが共和国は困難な状態にある。にもかかわらずわれわれは、日増しに増大する米国の核脅威に対処するため多額の負担を費やしている。
 ブッシュ行政府は、執権以来基本合意文の履行を意図的に遅延させ、結局は破棄してしまった。その結果わが共和国は、莫大な電力の損失によって相当な経済的被害を被った。
 米国は、核活動の凍結に相応する措置を頑なに反対している。米国はそのような措置を「報償」と言っている。われわれは米国に質問する。
 われわれを「悪の枢軸」と規定し、核先制攻撃の対象に含めたのは米国か否か?
 核脅威の張本人であり加害者の米国が、被害者のわれわれに対して核凍結に伴う対応措置を講じるのは順理からして正当な行為か否か?
 朝鮮は、第一段階の行動措置案を提示しながら米国に対してのみ対応措置を求めたのではない。われわれは朝鮮半島の非核化に利害関係のある全ての相手に対して同じ要求を提起した。
 米国は「書面による安全保障」があたかもわれわれの核凍結への対応措置であるかのようにのべている。これは一瞬にして反故にされうる公約に過ぎない。公約の信憑性は実際の行動によってのみ証明される。
 米国がわれわれの敵国という事実、米国がわれわれの周辺に侵略武力や核兵器を前進配備しているという事実、われわれに反対する兵力増強や軍事演習が引き続き行われているという事実等は、われわれが核活動を一夜にして撤廃するのが不可能であることを雄弁に物語っている。
 米国に「北朝鮮の核計画の完全かつ検証可能で不可逆的廃棄」を主張する権利があるならば、われわれには完全かつ検証可能で不可逆的安全保障を要求する権利がある。米国がわれわれに対して先に行動することを強要するならば、六者会談は無益な空論の場としかなり得ない。
 米国が「先核放棄」の立場を変えたなら、朝鮮半島の核問題を解決するために一方的な主張を行うべきではない。また、いかなる表現を使おうとも同時一括妥結案から出発すべきである。
 米国の指導層が朝鮮の核凍結に関する提案を拒否しておいて、米国は「完全な核撤廃」を願うというのは論理的な妥当性に欠けた無理な主張に過ぎない。われわれは米国が同時一括妥結案を全面的に受け入れるならば、米国の要求通り核の完全撤廃に応じる用意がある。
 現在までさまざまなルートを通じて伝えられる所によると、米国の提案は同時妥結案についてはひと言も触れておらず、本質的に「先核放棄」の枠を越えていない。このような現実は、米国が朝鮮半島の非核化や核問題の平和的解決に関心があるかのように振舞っているが、「先核放棄」という強盗的立場には何ら変わりがないことを実証している。
 米国の行動と言葉は、わが軍隊と人民に「書面による安全保障」に対する懐疑心を抱かせている。つまり、米国が問題解決を意図的に遅らせて他の目的を達成しようとしていると思わせている。
 時間を引き延ばすのは、われわれにとって決して悪いこととばかりも言えない。米国の遅延戦術によって、われわれは核抑止力を一層強化する道へと進む時間を稼ぐことになろう。これが遅延戦術がもたらす結果と言える。■